先日、後でお話しするといっていた料理コラボレーションの話をしましょう。
本来ならば地元のコーディネーターの方がセッティングをしてくれるはずの、イタリアのシェフとの料理コラボレーションの企画がなくなってしまったというのがもともとの事の発端だった。そこで、長野県スタッフで話し合いして、自分達で日本料理とコラボレーションをしてくれるシェフを探しにでかけた。
スタッフの誰もイタリア語を話せないため、現地にいる日本人を見つけて知り合いの料理人はいないかと聞いて歩いた。知り合いの知り合いのまた知り合いの紹介で、ネバーランドのコック長の桑原さんがイタリアンの一流レストラン「OSTERIA」のシェフ、サルバトーレさんと厨房を貸してもらう話ができたとの連絡が入った。しかし、日本語とイタリア語の交渉のため、うまくこちらの意思が伝わったか心配だと言う。シェフも厨房から出てきて話をしていないところを聞くと、厨房を借りるだけで料理を一緒に作るところまでの話はできていない。
私は中央市場で出会った日本人女性の紹介で、「ZAZA」というレストランで働いているウェイトレスに料理コラボレーションの話をしに行った。しかし、そのレストランは行列のできるほど込み合っている人気店で、ウェイトレスにとても話しかけられるような雰囲気ではない。やっと日本人ウェイトレスを呼び止めて「後でちょっとお話いいですか?」と声をかけられるのがやっとだった。とても厨房を借りて日本料理を作らせてもらうことは不可能である。
とりあえず夕食でも食べて暇になってきたらこちらの話を切り出そうとしていると、窓の向こうに「OSTERIA」から駆けつけた桑原さんたちがやって来くるのが見えた。なんと桑原さんは忙しそうに店内を走っているさっきの日本人ウェイトレスを捕まえて交渉を始めている。あわててそこに駆け寄ると、もう大分話は進んでいて、店の厨房を貸すことは難しいが、通訳だったらやってもいいということになっていた。
彼女の仕事の終わる夜の11時を待って、それから「OSTERIA」へまた出かけた。
「もっと日本文化を知ってもらうために、私たちはイタリアのシェフと一緒に料理を作りたいんです。」
「厨房を貸してもらうだけでなく、あなたと一緒に料理を作りたいんです。」
桑原さんの言葉にはなんの飾りっ気も洒落っ気もなかった。あったのはただただ真っ直ぐな料理に対する思いだけだった。通訳をかって出てくれたウェイトレスの清水さんがその言葉を一生懸命伝えてくれる。交渉は気がつけば1時間ほどになっていた。シェフのサルバトーレさんはひたすらうなずいて話を聞いてくれていた。最後は同じ料理人として気持ちに応えてくれるかたちで、朝から仕込みで厨房を貸してくれること、午後15:00〜夕方までレストランを貸切にしてくれること、シェフの友人を招いてくれること、一緒に料理を作ってくれることなど約束してくれ、力強い握手をしてくれた。
料理人が自分の力で勝ち取った、価値のある料理企画となった。