今回のネオジャパネスクのイベントを通して多くのことを学んだ。
和力はロンドンでの公演で、自分たちの本当に伝えたい音を音楽監督のアンドリューさんに伝えるために、直談判でリハーサルの後、1時間の時間をとってもらいプレゼンテーションを行なった。現地で借りた和太鼓ひとつしかなかったが、太鼓の変わりに椅子や床をバチで叩いて、一生懸命自分たちの音をアピールした。今回のイベントでは三味線は絶対使わないと釘を刺されていた。しかし、舞台の音楽を聴き和力の小野さんは、自分の三味線を出して「この音がいいのではないか」とアンドリューさんの前で三味線を弾き始めた。その姿が表さんやアンドリューさんの心を動かした。2日遅れで和太鼓が全部揃って、リハーサル室で和力本来の音が音が響いたとき、ロンドンのダンサー達から拍手が起こった。
料理人の桑原さん、遠山さんは、自分達がイタリアで料理企画をするために、なりふりかまわず、ただただ頭を下げて町の中を歩いた。日本ならばそこまでしなくてもいくらでも仕事が来るであろうシェフ二人が頭を下げていた。日本の文化を伝えたい。このイベントを成功させたいという思いだけが二人を突き動かしていた。
私は今回のイベントでそんなスタッフの後ろ姿をずっと見ていた。
チャンスはいくらでも自分の前に転がっている。大切なのは、そのチャンスを自分の手で掴み取ることなのだ。和力がきっとあそこで三味線を出さなかったら、それなりのものは出来上がっていたのかもしれないが、みんなが納得できるレベルのものを作り上げることはできなかった。事務局が手配してくれたレストランで打合せのできたシェフと料理企画をしても、あれほど気持ちのこもった料理は作ることができなかったのかもしれない。
与えられるものを待っていても決して自分の欲しいものを手に入れることはできない。そしてチャンスが目の前にやって来たとき、勇気を持ってそのチャンスを自分の手で掴みとらなければ、誰もそのチャンスを自分のもとへたぐりよせてはくれない。それを見てあれやこれや言う人はいる。しかし、そういった人間がなんの責任を取ってくれるというのか。勇気を持って一歩を踏み出し、結果を出していくことの偉大さを今回多くの人々の後ろ姿から学ぶことができた。
パリからは無事に帰ってくることができ、今日は旅館のデスクで若旦那最後の日記を書いている。思い返せば楽しかったような、辛かったような旅だったが、ひとつ言えることは、なにがあっても決して諦めずに前に進むことだということだ。生涯忘れることのできない16日間となった。
「若旦那の日記」……おわり。
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