地元新聞の「信州日報」に、若旦那が書いたロンドン・フィレンツェでのネオジャパネスクの文化イベントの様子がシリーズで掲載されています。この新聞は南信州でしか読むことができないため、若女将の日記にてご紹介して行きたいと思います。
新たな和菓子への挑戦
先月にロンドンとフィレンツェで行われた日本文化提言イベント「ネオジャパネスク2006」では、飯伊から参加した長野県スタッフが芸能や和菓子、料理のもてなしで高い評価を得ました。ネオジャパネスク文化経済連合会(表博耀(おもてひろあき)会長)の長野県支部長で長野県スタッフ代表を務めた逸見尚希さん(石苔亭いしだ社長)に、メンバーの奮闘ぶりをリポートしてもらいます。
私たちがネオジャパネスクに参画することになったのは、県内作家のクラフト作品を旅館空間に組み合わせたイベント「風をテーマにした客室」を六月に石苔亭いしだで行った際、表博耀会長がみずからデザインした着物「古の翼」を提供してくれたことがそもそものきっかけだった。
ネオジャパネスクは「温故創新」をキーワードに日本の文化や産業を現代と過去において融合させ、日本の個性を世界に発信しようと活動している団体である。今年の「ネオジャパネスク2006」に参画してもらえないかと正式に表会長から話を頂いたのは、その月の下旬のことだった。十月十二日にイタリアのピッティ宮殿で開催される茶会「あい茶会」で、おもてなしプロデューサーを私に担当してほしいという。イタリアのスタッフにお茶の作法や所作を教えたり、あい茶会で提供されるものを揃えたりと、雰囲気作りを総合的に演出するのが表会長から託された役割だった。
あい茶会で出される和菓子を作るために、南信州でこだわりをもった仕事をしている職人の方々にさっそく声をかけた。根羽村「ネバーランド」コック長の桑原幸一郎さん、和菓子店「田月」社長の城田茂さん、セラード珈琲の佐々木隆浩さん、ケフィア・アグリの福岡美子さんと、多種異業種のスタッフが集まった。和菓子を載せる漆器のお盆の制作は、木曽の漆器店「ちきりや」の手塚英明さんが引き受けてくれた。
あい茶会を含めたロンドン・フィレンツェで行なわれるネオジャパネスク文化イベントの音楽担当としては、和力の加藤木朗さんに依頼した。いずれの皆さんも今回のイベント趣旨に賛同し、南信州ブランドを世界へ発信していくことに力を貸すことを約束してくれた。
ようやくメンバーがそろった時はすでに七月、本番まで三カ月しかない。ちきりやの手塚さんは表会長のデザインをもとにさっそく勾玉(まがたま)の形をしたお盆の制作にとりかかった。和力はステージのイメージデッサンをもとに和太鼓を中心とした音楽を創り上げていく。
各スタッフが順調に準備を進めていく中、和菓子担当のスタッフだけはどんな作品がイベントにふさわしいか悩んでおり、なかなか制作にとりかかることができずにいた。試作品第一号としてネオジャパネスクのシンボルでもある「古(いにしえ)の不死鳥」をかたどった細工菓子を作ってみたが、子どもの粘土細工のようで味も今一つ。表会長に試食してもらったが案の定「形にこだわり過ぎ」「食べて美味しいと思えるものでないとダメ」と却下された。
会長からのアドバイスでお盆と同じ勾玉の形をした水菓子を試作してみたが、結果はやはり不採用。どうしてもいい和菓子を作ることができず、新しいものを生み出すことの難しさに全員あきらめムードになっていた。
ある日の会議で、スタッフの一人から声が上がった。「作ったお菓子がダメ出しされているんじゃない。これくらいしかできないと思っている俺たちがダメ出しされているんだ」。
その言葉をきっかけに、沈んでいた雰囲気は一変した。日本とイタリアをつなぐ和菓子を自分たちの手で作りたい、それをこの南信州から発信したいという熱い思いから、いろんなアイデアが生まれはじめた。(つづく)
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